Novel
セセリ ~ 『エスプガルーダ』 より
  [01] -
Gift
Owner's inside
Tool
Google



キーワードアドバイスツールプラス
アクセスアップ・SEO対策・検索エンジン登録

セセリ ~ 『エスプガルーダ』 より

Written by Alpha-S.I.D. (2005.07.18)

1.

作戦司令室を兼ねたテント。
それは進攻対象の街からはゆうに 10km は離れた小さな山村に設けられていた。
齢12歳にして初めて総指揮となった皇女セセリは、その中で数名の士官たちと卓を囲み
小さな体を椅子に深々と沈ませ瞑想していた。

(今日こそ、終わらせてくれる。)

彼女はこれから始まる作戦のために、持てる全てを賭けるつもりでいた。
国を裏切り逃亡した錬金術師ヒオドシと研究成果であるガルーダ達の捕獲。
加えて、彼らを隠匿してきたカヤ国への制裁的進攻。
セセリにとって後者はどうでも良かった。
逃亡者達を無力化して連れ帰る。その達成さえ叶えば、戦いは最小限に抑えられるはず。

失敗は許されない。
国の威信のため。自分の不甲斐なさを捨て去るため。
そして・・・・・・。

 「申し上げます! 各隊の配置完了いたしました!」

通信兵の報告を受けたその場の士官達は、一斉に彼女に視線を向けた。

 「よろしい。」

セセリはそのつぶらな瞳をゆるりと開けると、短く答えつつ椅子から立ち上がった。
間を空けずその場の全員が起立し、彼女の言葉を待つ。

 「本作戦は、我らが祖国の更なる発展に必要不可欠となる、最後の積極的進攻である。
  現地においては、各自、国の代表である事を肝に銘じて行動するよう末端まで伝えよ。
  以上、作戦開始!」

セセリは一息に言い放つが、終わるのを待たずしてその場がざわつきだしていた。
そして、誰もがその顔に困惑の色を浮かべていた。

 「おそれながら。」

 「なんじゃ、ムラサキ。」

階級では大将となる、歳の割りに体格ががっしりとした
白い髭が特徴的な初老の男がセセリの前に進み出て、続けた。

 「これが最後と言われる真意を伺いたい。
  戦無くしては我ら軍の存在意義が消えてしまいます。」

(感謝するぞ、ムラサキ。)

セセリは内心ほっとしつつ、答えた。
そう、これは、士気をまとめ、そして高めるための、ちょっとした芝居。

 「皆の者、よく聞いてほしい。
  今この時、他の国がシンラをどのように見ておるか知っておろう?
  力で他国を蹂躙し続ける恐怖の権化であるような言われよう。
  余には、それがもう耐えられないのじゃ。」

静まり返るテント内。

 「確かに、余が生まれる以前の国は小さく、力が必要だったのであろう。
  だが、大陸の六割を飲み込んだ今、何を求めて攻め入るのじゃ?
  シンラの名を世に知らしめるためだけに犠牲を払うなど、
  今となっては愚の骨頂である。」

おかしい。
ここで誰か一人くらいは批判的な言葉を浴びせかけてきてもいいはずだが・・・。
しかし熱を帯びだした言葉はひとりでに綴られてゆく。

 「余はこれ以上の戦はしたくはない。
  しかし、16年の長きに渡り、国の脅威となっているものがある。
  それは、逃亡者ヒオドシと奪われたガルーダの持つ力に他ならない!!
  今日こそ、余は彼らを無力とし、最後の戦とし、シンラを、正しき、道、へと・・・」

図らずも涙と共にこみ上げてきてしまった。
できるなら口にしたい、本当の気持ちは他にあったのだ。


Page [01] - [TOPへ]

2. 作戦決行の前夜。侍女のコノハに連れられセセリの小屋へと訪れたムラサキは 緊張の面持ちで尋ねた。  「姫、いかがなされましたかな?」  「ムラサキ、すまぬな。」  「いえ。」 小さな机に向き合って座り、セセリは礼を述べた。 そして、真剣に耳を傾けてくれるこの最も信頼の置ける戦士に、告白を始めた。 コノハは気を利かせてか、姿を消していた。  「そなたは、他国への進軍についてどう考えておるのじゃ?」 進攻前夜というこのタイミングでは意外な質問だったが、 彼女を良く知るムラサキにとって想定外ではなかった。  「不要かと。   国は十分に栄えておりますし、今となっては刃向かって来る敵もおりますまい。   それに・・・戦となりますれば、多少なりとも犠牲がありますゆえ。」 本音を伝えた。  「そうじゃな。余もそう思う。そこでじゃ、明日の布陣は・・・。」 そう言ってセセリは地図を広げ、ムラサキに細かく説明した。  「良いお考えにございます。しかし・・・。」  「父上はお怒りになるであろうがな。」 セセリは頷き、少し寂しげに視線を逸らした。  「姫・・・。」 促したつもりはなかったのだが、セセリはムラサキに視線を戻し、続ける。  「そのことはもう良い。あとはお主に任せる。責任は余が持つ。   しかしな、脅威は依然として残っておる。ガルーダ達じゃ。   父上は生け捕れと命じられたが・・・。」 途切れた。ムラサキは待った。  「おそらく、父上はガルーダの力だけを・・・・・・欲しておられる。   余はな、その見知らぬ強大であろう力を、今の父上に渡してはならぬと考えておる。」 ひたすら聞き続けるムラサキ。  「いっそ殺して帰れればとも思うた。さすれば、さすがの父上も諦めるであろうと、な。   名案だと思ったのじゃ。けれど、その時を考えるとな、   震えて、怖くなるのじゃ。」 ・・・・・・。  「そりゃぁ、憎いと思ったこともあったぞ? いや、今だってそうなん、だけど。   だって、だってね、セセリがどれだけ頑張っても   お父様ったらあいつらのことばっかり追っかけてて、   セセリのこと見てくれないんだもん。   皇子はセセリ一人で十分なのに。セセリが頑張るから、あいつら要らないのに。   ほんと、ムカつく!」 ・・・変わっていた。否、"戻っていた"。これは本心だ。しかし、マズい。  「けど、ね、兄弟なの。血が繋がってなくても・・・憎くても、ね・・・兄弟なの。   セセリ、会いたいよ。けど、捕まらないんだもん。   捕まったってお父様が独り占めしちゃう。なんで独り占めするの?   一緒に遊べないの? セセリ仲良くしたいよ。   わかる? ムラサキ。ねぇ、何かいい方法ない? ない、! もの、か? うァ、ァアア!!」  「姫ッ!!!」 ムラサキはとっさに水の入ったコップを引っつかみ、逡巡せず水を浴びせた。 目まぐるしく表情を変え一気に捲し立て、 ついには頭を抱えだしたそのか弱い姿を痛ましく思いながら。  「あ、セ、・・・?! 余はまた、おかしくなったのであるな。すまぬ。」  「いえ。」 いつの間にかそばに控えていたコノハが、乾いた柔らかな布で丁寧に濡れたセセリを拭い、 もう一つのコップを差し出した。 セセリが こくっこくっ と水をゆっくり飲み干すのを見届けると、彼女は去った。 そしてこんな時は、下手に言葉をかけないことがお互いにとって最良の選択となっていた。 セセリは稀に、症状としては口調の退行をきっかけに、 精神的な公私が大きく分離して発作を起こすことがあった。 最近は年に数回にまで減じていたため周囲を安堵させていたが、 それでもいざ目の当たりにするとやはり、寿命が縮む思いがする。 学校に通い始める頃だったか、 父である国皇ジャコウがセセリを第一皇子として周知するために 男子のように振舞うことを強制してからのことだ。"余" という一人称と共に。 以降、セセリは女の子らしさを努めて封じてしまった。それが原因に違いなかった。 しかしセセリの口調が変わっても、 誰一人としてセセリに対し "皇子" と呼びかける者は無かった。 そんなことをせずとも、セセリが紛れもない王位継承者だと誰もが認めていたし、 そもそも、奔放で気さくで情の厚さを覗かせていたその性格が 多くの者から愛されていたことが理由としては正しかった。 ジャコウは一人しばらくふてくされていたが、やがて一々注意してまわることを諦めたものだ。 そういった経緯があってか、国皇よりもセセリの方が好感度は常に高かった。余談だが。  「で、何とか出来ぬか?」 落ち着いたあと、一言。すがる目つきでムラサキを見つめるセセリ。 今度はムラサキが視線を逸らすこととなった。 彼は腕組みをし、むぅ、と言ったきり椅子の背に深くもたれ、目を瞑った。 けれど、良い考えは浮かばなかった。 姫の言葉がこんなにも重く深く突き刺さっているのに、力にはなれないのか。我は無力だ。 そして間を置いて・・・  「ガルーダの力を無効化できますれば、そのようなことにはならぬと存じますが。」 大雑把に答えることしか出来なかった。 だが彼女の瞳は輝いた。無かった答が現れた。それだけで十分だった。  「そうか! なるほど、思いもよらなかったぞ。して、方法は?」  「ヒオドシ殿なら、ご存知かと。」  「そうじゃな、きっとそうじゃ。恩に着るぞ、ムラサキ!」 セセリがはしゃぐ様子を見て、ムラサキは心を痛めた。 答を先延ばしにしたに過ぎないからだ。 その上、ヒオドシは反逆の罪により国に帰すことなく殺さねばならないことが、 可能性を酷く狭めていた。  「それとな、もう一つ問題があるのじゃ、ムラサキ。・・・ムラサキ?」 ムラサキの暗く沈む意識が思考の螺旋に入りかけたその時、 顔の下から、幼く不思議そうにしている顔がのぞき込んでいた。  「ひ、姫っ?! ・・・おどかさないでいただきたい。」  「むぅ~! ちゃんと余の話を聞かぬからじゃ!」 椅子に座りなおし、横を向いてふくれっ面をしたその仕草は、 なんとも可愛らしい、普通の少女のものだった。ハハハ、と、ムラサキは笑った。 他人をいたわるのにも、程がありますぞ、姫。。。  「さて、問題とはなんですかな?」  「その、な。余は父上の命令に少なからず背くわけであるからして・・・   軍をこのまま率いて良いものかと・・・・・・。」 確信的に総指揮になられておいて、何を今更。 と、ムラサキはまたしても笑いそうになるのをこらえ言った。  「姫、我々は姫の指揮の下にこうして集っているのでありますぞ。   もう少し信頼いただいても良いものと存じますが。」  「そ、そうか。これは済まぬことを言ったようじゃ。取り消す。許せ。」  「解っていただけたのでしたら、問題はありませぬ。」 少し尊大かつ不満そうに言ってみれば、セセリは申し訳なさそうに小さくなっていた。 結局、ムラサキは笑ってしまった。 その様子を見て、セセリはほっと胸を撫で下ろしたのだった。 本当に姫は、良い成長をなされた。ムラサキは心から思っていた。そして嬉しかった。 シンラの為に姫は守らねばならない。相手が何者であっても、だ。 この時、そう改めて誓ったのだった。  「姫、明日の作戦開始前ですが。」  「なんじゃ?」  「思うところを素直に皆に話してみてはいかがかと。」 ムラサキはひらめいていた。 それからしばらく、二人はセセリが作戦前に行う口上についてシナリオを描いた。


Page [01] - [TOPへ]

3. 場面は戻って、作戦開始直前。  「お前達、聞いたな?」 もう終わりましょうとばかりにセセリの肩に優しく手を置きつつ、 ムラサキは他の士官を向いて尋ねた。 全員、一斉にセセリに対し敬礼する事で答えとした。  「姫、わたくしめもジャコウ殿に正気を取り戻していただきたいのですよ。」  「!!」 ムラサキに囁かれ、セセリはハッとした。 彼は自分が押し隠してきたつもりの心を知っていた。 途端、恥ずかしさのあまり右腕で目を隠しつつ涙を拭う。けれど、止まらない。  「ハハハ。姫は、わかりやすくてあらせられる。」 と、敬礼を勝手に解いた少尉のマサキが、わざとらしく慇懃に言った。 彼はセセリより2つ年上だが、幼馴染であることもあり 普段より対等な口調を正されることはない稀有な存在となっていた。 そして、続けた言葉がその場の全員が持つ爆弾を炸裂させた。  「台詞というものは、覚えるだけではありませぬぞ?」 その一言を皮切りに  「ックク! いやいや、姫は長い台詞でも大丈夫な素晴らしい役者にございますぞ!」  「姫が指揮を執りたがるなんて、なんかあると思ってたんですよねー。アーハッハッ!」  「いつぞやの学芸会と変わらぬクオリティーで、大変感銘を受けましてございます!!」 と、どっ!と沸いたそこは、確か作戦司令室。なんと腹を抱える者まで出る始末。 前言撤回。マサキだけが特別にあらず。緊張感はどこへやら。  「!!!」 振り返るセセリ。ニンマリと、満足そうに微笑むムラサキ。 向き直るセセリ。ニンマリと、満足そうに微笑むその他全員。  「き、きさまらぁ~。。。」 謀られた。ムラサキだけではなかったのか。しかも、心なしか小馬鹿にされているような? ちょっと判ってしまったセセリ皇女。 恥ずかしさに怒りが加わり最高潮に達したがしかし、悪い気はしていなかった。 いつの間にか涙は止まっていた。 何があってもやり遂げられる、そう思えた。 だからこそ言えた。  「今日で!」 セセリが再び言葉を紡ぎ出すと、みな一斉に彼女に向き直り直立不動の姿勢をとる。  「今日で終わりにしたいのじゃ。よろしく頼む。」  「「「オー!!」」」 男達だけでなく、女達も少々はしたなく腕を振り上げ叫んだ。 士官たる者、もう少しクールであらねばならんのではないか。 とは、火に油を注ぎそうなので言えなかった、まだ大人には勝てないセセリ姫なのであった。


Page [01] - [TOPへ]